上野村

STORYNo.010

今でも残る、ふるさとの原点。探求心があれば楽しめる

持ち前の探究心と行動力で、森の恵みを仕事に活かしたり、趣味として楽しんだりして暮らしてきた仲澤さん。自然をどう楽しみ生かしているか教えてもらいました。

  • 仲澤 一男さん
  • 上野村 出身
  • 村民歴 高校時代以外、ずーっと上野村 ※2021年2月時点

これまでに上野村でどんなお仕事をされてきたのでしょうか?

 前橋の高校を卒業後、2年ほど前橋で仕事をして、21歳くらいで上野村に帰ってきました。そこからずーっと上野村です。仕事は主に林業ですね。森林組合の仕事を請け負ったり、自分でも森を経営したり、そこでキノコを作ったりしてきました。

 50年もの間に、いろいろな時代の変遷がありました。コンニャクが高く売れた時代にはコンニャクも作りましたし、そのほか漢方薬を開発する会社と契約して漢方薬の原料を売っていたこともあります。キハダなど、林産物のなかに薬に効果のある材料があるんです。

 73歳になりましたが、体が丈夫なので、今もまだ森のなかでシイタケを栽培したり、漢方薬の材料を売ったり、電力会社からの依頼で、送電線の下に伸びてきた木を伐採するような仕事もチームを組んでしています。

 

仲澤 一男さん

メープルシロップも作られていると聞きました

 もう30年近く前になりますが、東京からメープルシロップの採り方を教えてくれる人が来て、それがきっかけで、趣味で作るようになりました。ご存じの通り、メープルはカエデのことですが、上野村にはイタヤカエデ、イロハカエデなど、いろんなカエデの木があるんです。カエデの木の幹に穴をあけて管を取り付け、樹液をいただくんです。樹液はざーっと出るのではなく、ぽったんぽったんと落ちます。容器を設置しておいて、2~3日経って行くと、溜まっています。それを、大鍋でぐつぐつ煮ます。沸騰して煮詰まるとどんどん甘くなるんですね。40分の1くらいまで煮詰まると、糖蜜だけが残ります。それが、メープルシロップです。

 上野村にはカエデの木は無尽蔵にあるから、メープルシロップを作って名産にしたらどうかと考えたこともあります。でも、樹液が採れる時期は本当にわずかなんです。真冬は木が凍りますから、少し暖かくなった春先が最も質が良いのですが、3月に入るともう質が落ちるのでダメです。

 しかも、40分の1に煮詰めるのは大変なことですよ。例えば大鍋で20リットルの樹液を朝7時頃から薪ストーブで沸かし始めて、夜20時くらいになると、ちょうど500mlのペットボトルくらいの量のメープルシロップができます。燃料代を考えただけでも採算が合わないと思って、諦めました(苦笑)。

 

カエデの木から樹液を採取する様子

樹液を鍋で煮詰めると、美しいメープルシロップに

 

 ただ、生産はダメでも、メープルシロップが採れるという珍しさはあるから、観光にしたらどうかと考えて、数年前に「メープルシロップ採集体験ツアー」を計画しました。20人限定で、森で樹液を採ったあと、私の庭を開放して煮詰めるんですが、これが人気で、うちの庭が若い女の子でいっぱいになっちゃった(笑)。「日本でもメープルシロップが採れるのか!」ととても喜んでもらえましたね。この体験ツアーは数回開催しましたが、私も年をとったので、今、若い人に引き継いでいるところです。

上野村の魅力は?

 「ふるさと」という民謡の歌詞に「山は青きふるさと、水は清きふるさと」とありますが、上野村はまさにその通りですよね。探求心と遊び心があれば、この村は本当に面白いところです。コンビニもパチンコ屋もない。飲み屋は1件くらいあるかな?それくらい何もない村ですが、探求心を持って自然の中を歩くと、自然がいろんなことを教えてくれます。だから、飽きない。私なんかは、山に入ると、元気に呼吸している木とそうでない木はすぐに分かります。73歳で森林の伐採してるんですよ。この村に住んでると、ボケてる暇はありません。

 いもから作った手作りのコンニャクを食べてみてください。本当に感動しますよ。刺身みたいにツルツルに作ることもできれば、コリコリに固く作ることもできる。また、昔の人は風邪をひいたときに、山で葛(くず)を採って葛湯を飲んだりしたでしょう。それは古くから伝わる人間の知恵ですよね。上野村にはまだ、このような“ホンモノ”がたくさん残っています。手間はかかりますが、ふるさとの原点のようなものですよね。

 

仲澤さんご夫婦